ピロリ菌とは
ピロリ菌とはなに?
ピロリ菌とは、ヒトの胃の粘膜表面に生息している菌で、50歳以上の人の約80%が保菌していると考えられています。
ピロリ菌は、放置しておくと胃や十二指腸の病気を引き起こすことがあります。
正式名は’ヘリコバクター・ピロリ’。
ヘリコとは「らせん」とか「旋回」という意味。ヘリコプターのヘリコと同じです。
ひげの部分も回転させて移動します。
バクターとはバクテリア(細菌)。
ピロリとは胃の出口(幽門)をさす「ピロルス」からきています。
この菌は胃の幽門部から初めて見つかりました。
ピロリ菌の最も大きな特徴は、酸素の存在する大気中では発育しないことで、酸素にさらされると徐々に死滅します。
乾燥にも弱く、グラム陰性桿菌に分類されます。
大きさは1000分の4mmで、数本のべん毛を持ち、胃酸が弱いところを察知する役割もあり、より生息しやすい場所を見つけて胃の中を移動します。
胃の中には、食べ物の消化を助けるための胃液があります。
胃液には塩酸が含まれています。
これは非常に強い酸性(pHが2)であり、ほとんどの菌は生息できません。
ピロリ菌も同様に酸性の中では生きられません。
しかし、ピロリ菌は「ウレアーゼ」という酵素を分泌させ、胃の中の尿素をアンモニアと二酸化炭素に分解し、アンモニア(アルカリ性)で胃酸を中和することにより、自分の身の周りの酸を和らげて生きています。
これをウレアーゼ活性といいます。
日本でのピロリ菌の感染者数はおよそ6,000万人にものぼるといわれています。
10~20代では10%前後と感染率は低いものの、50代以上の人では40%程度、さらに60歳以上では60%程度※と一気に跳ね上がる割合で感染していることがわかっています。
※厚生労働省資料「ヘリコバクター・ピロリ除菌の保険適用による胃がん減少効果の検証について」国立国際医療研究センター国府台病院 病院長 上村 直実氏
ピロリ菌発見の歴史
西オーストラリア大学のロビン・ウォーレン名誉教授とバリー・マーシャル教授がヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)を発見し、 2005年のノーベル医学生理学賞を受賞しました。
当時、ロイヤルパース病院の病理医だったウォーレンは1979年、胃炎患者の胃粘膜に小さな曲がった未知の細菌(ピロリ菌)を発見。
その後消化器内科研修医マーシャルとの共同研究により、100人の患者の組織を調べた結果、胃炎や胃・十二指腸潰瘍患っているほとんど全ての患者でピロリ菌を確認しました。
そして試行錯誤の末、1982年にはピロリ菌の分離培養に成功しました。
何度も失敗しながらも細菌の培養に成功したマーシャルは、自ら培養した細菌を体に取り込みます。
細菌を取り込んでから、胃の組織を採り続けると10日目に急性胃炎を起こしたことがわかりました。
マーシャル自身がピロリ菌を飲む実験により急性胃炎が起こることを確かめたエピソードは有名な話です。
それまで消化性潰瘍などはストレスや生活習慣が主たる原因と考えられておりましたが、これにより、胃炎や胃・十二指腸潰瘍はピロリ菌の感染が引き金になることが明らかとなりました。
慢性胃炎が胃がんのリスクを高くすることもわかってきたのです。
この発見はピロリ菌を除去する除菌治療へとつながり、胃がんや再発を繰り返す胃・十二指腸潰瘍の治療に革命をもたらしました。
ピロリ菌の感染について
感染経路は水や食べ物と一緒の摂取が大半
日本においてピロリ菌感染者数は、約3,500万人といわれています。
ピロリ菌の感染経路は現在も明らかになってはいませんが、免疫力の低い幼児期(5~6歳以下)に、生水(おもに井戸水)や食べ物と一緒に摂取してしまうことが大半です。
また、乳幼児期に親族から口を介して感染している場合もあります。
さらに幼児の場合、胃酸酸度や分泌量が低く、ピロリ菌が胃内で生き続けやすい環境であることも感染要因のひとつです。
衛生環境が整備されていない時代や地域などの経口感染によると考えられています。
環境の整った現代では、感染している人の数が低下しています。
感染者でも自覚症状がない!?
ピロリ菌が胃に常在していたとしても、常に症状があらわれる訳ではありません。
何らかの病気を発症するのは感染者の約3割程度です。
特に、子どもの頃に感染した場合は症状がはっきりしません。
しかし、感染したほとんどの人に胃炎がおこります。
ピロリ菌に感染したからといって、潰瘍や胃癌が必ず発症するわけではありませんが、
除菌しない限り、ピロリ菌は胃の中にすみ続け慢性的炎症が続き、胃の粘膜を防御する力が弱まり、ストレスや塩分の多い食事、発癌物質などの攻撃を受けやすい無防備な状態となります。
たとえ症状がなくてもピロリ菌への感染は危険なのです。
日本ヘリコバクター学会のガイドラインによると、ピロリ菌が原因となる疾患の治療と予防のため、ピロリ菌に感染した場合は除菌療法を受けるよう推奨しています。
ピロリ菌に感染してしまうとどうなる?
ピロリ菌に感染しても、すぐに潰瘍や胃がんになるわけではありません。
ピロリ菌に感染すると、多くの方が胃炎を起こします。
ピロリ菌が胃粘膜に生息し続ける限り胃炎の状態が続き、萎縮性胃炎(慢性胃炎)に進行します。
そして、萎縮性胃炎になると胃がんになる危険性が高まります。
ピロリ菌の存在が胃がんの原因になると言っても過言ではないでしょう。
胃の違和感や痛みがある場合で、長期間、同じ症状を繰り返しているのであれば、一度専門医
を受診するといいでしょう。
萎縮性胃炎(慢性胃炎)を軽減し胃がんリスクを下げるためにも、ピロリ菌感染した場合には
ピロリ菌除菌治療を受けることが推奨されています。
家庭内感染の可能性はあるの?
生活する中で、感染する可能性は身近に潜んでいるのでしょうか。
また、感染防止のためには何ができるでしょうか。
乳幼児期の経口感染に注意
免疫機能が十分に発達しておらず、胃酸分泌の少ない乳幼児の場合は、親族から口を介して感染する場合があります。ピロリ菌はそのまま胃粘膜にすみつき慢性胃炎を引き起こす恐れがあります。そして、感染状態が長く続けば胃粘膜の感染範囲も広くなります。
乳幼児がいる家庭内で注意すべきこと
飲み水や食べ物自体にピロリ菌が含まれないように注意することが大切ですが、現代の環境では井戸水を使うことも少ないため、水に過敏になる必要はないでしょう。それよりピロリ菌に感染している大人から小さい子供への食べ物の口移しなどは感染させる危険があります。
ピロリ菌が原因でなる病気
胃の粘膜にすみつくピロリ菌ですが、消化器疾患以外にも血液疾患や皮膚疾患など、
様々な疾患の発症に関与していると考えられています。
リスクが高まる疾患名 | 概要 |
胃潰瘍 | 胃壁の粘膜が深く傷ついている状態。症状は腹痛や吐き気、腹部満腹感など。 |
十二指腸潰瘍 | 十二指腸壁が深く傷ついている状態。症状は空腹時のみぞおちや背中の痛みや吐き気など。 |
胃がん | 胃の粘膜から発生するがん。症状は早期にはありません。 |
胃MALTリンパ腫 | 胃の粘膜にあるリンパ組織(MALT) から発生する、ゆっくり発育する悪性度が低い腫瘍。 |
突発性血小板減少性紫斑病 | 血小板数が減少し、出血しやすくなる、あるいは血が止まりにくくなる疾患。 |
鉄欠乏性貧血 | 血液中の鉄分が不足して起こる貧血。だるい、疲れやすいといった症状も招く。 |
慢性じんましん | 強い痒みとみみずばれが1ヶ月以上続く疾患。 |
ピロリ菌が引き起こす病気
■ 胃潰瘍、十二指腸潰瘍
胃潰瘍・十二指腸潰瘍は、ピロリ菌感染により胃粘液が酸の影響をうけて弱まり、胃や十二指
腸の粘膜が傷ついて深くえぐられた状態のことです。
潰瘍患者のピロリ菌感染率は90%以上。
昔も今も潰瘍は一度よくなっても半数以上が再発し、薬をなかなかやめることができない
病気。
しかし、ピロリ菌除菌で胃潰瘍、十二指腸潰瘍ともに再発率が明らかに減少しました。
ピロリ菌がどのように潰瘍を起こすかはまだ完全に解明されていませんが、
ピロリ菌に感染していると炎症が起きやすく、潰瘍は膿んだ状態になりますが、ピロリ菌が
いなくなると潰瘍は膿のないきれいな状態になり、きれいに治ることが多いです。
■ 胃がん
ピロリ菌感染者の多い日本では、世界的に見ても胃がん患者が多いようです。
胃がんは、胃粘膜内の細胞が、何らかの原因でがん細胞になり、増殖を繰り返す状態です。
胃がんの原因は喫煙や食生活などの生活習慣や遺伝の影響があると言われていますが、
ピロリ菌感染が発生のリスクを高めるという報告があります。
早期胃がんでピロリ菌が見つかった場合は、内視鏡的治療後に除菌治療が推奨されます。
1994年、世界保健機構(WHO)は疫学的調査から、ピロリ菌を確実な発がん物質と
認定しました。
除菌により胃がんの発生率が1/3に抑制され、ピロリ菌除菌に胃がん予防効果がある
と証明されています。
■萎縮性胃炎
粘膜層が非常に薄くなり胃炎と同様の症状を起こす萎縮性胃炎の大部分も、
ピロリ菌感染が原因。
萎縮性胃炎になった場合、その後の胃がん予防のためにピロリ菌除菌治療が薦められます。
ピロリ菌に感染するとまず急性胃炎が起き、長い年月をかけて萎縮性胃炎になり、
胃がんになる危険性が4~10倍に増加すると考えられています。
これまで萎縮性胃炎は加齢現象といわれてきましたが、ピロリ菌感染者のみが萎縮性胃炎
になることと、除菌でそのリスクが改善することがわかっています。
ただし萎縮性胃炎以外のいわゆる慢性胃炎と呼ばれるものの原因には、ピロリ菌感染以外に
加齢、塩分の過剰摂取、アルコール、タバコ、野菜の摂取不足など多くのものがあるので、
ピロリ菌除菌をしたからといって油断してはいけません。
その他の病気について
その他の病気として、
胃MALTリンパ腫
免疫性(特発性)血小板減少性(ITP)
早期胃がんの内視鏡的治療を受けた方
ディスペプシア症状(みぞおち辺りの痛み・焼ける感じ、食後の胃もたれ、食事中に胃が充満した感じとなり、最後まで食事を摂取できない状態)
がある方は、ピロリ菌の除菌治療が勧められてます。
かかりつけの病院で相談しましょう。
日本ヘリコバクター学会は、ピロリ菌感染によって起こりうる胃がんリスクを軽減するために
ガイドラインを提示しています。
・内視鏡検査においてヘリコバクター・ピロリ感染が原因による胃炎と診断された
・胃潰瘍や十二指腸潰瘍が認められた
・胃MALTリンパ腫と診断された
・特発性血小板減少性紫斑病の場合
・早期胃がんを内視鏡で切除した場合
上記の5項目に当てはまる場合には、保険適用でピロリ菌除去治療を受けられます。
ピロリ菌の検査
保菌者全員に自覚症状があるわけではありませんが、
ピロリ菌に感染するとほとんどの人が萎縮性胃炎(慢性胃炎)となります。
そのため、症状の有無に関係なく検査することが大切です。
①尿素呼気試験
②胃カメラ検査
胃粘膜の炎症による発赤や萎縮の状態を確認し、胃粘膜の一部を採取し調べる検査です。
③血液検査(ABC検診)
ピロリ菌に対する抗体と、胃の炎症や萎縮度を調べる検査です。
ペプシノーゲン:胃の粘膜で生成される消化酵素のペプシンを作る物質です。
萎縮が進んだ胃がんになりやすいと言われています。
ピロリ菌は胃粘膜にダメージを与え、様々な病気の引き金になると考えられていおります。
④便中抗原検査
便をとり、便中のピロリ菌の有無を調べる検査です。
⑤尿中抗体検査
尿をとり、尿中のピロリ菌抗体の有無を調べる検査です。
ピロリ菌の除菌治療
ピロリ菌の除菌治療には、
胃酸の分泌を抑制するお薬と2種類の抗生物質の3つのお薬が用いられます。
1次除菌薬
この三種類のお薬を一週間服用することで、
約8割の方は除菌に成功すると報告されています。
除菌薬服用後、胃の中に本当にピロリ菌がいないのかを知ることはとても重要です。
なかには一度で除菌できない場合もあります。
2次除菌薬
除菌後の判定検査を受診し、ピロリ菌の有無を確認しましょう。
除菌前 除菌後
除菌後のフォローアップ
除菌に成功したからといって、胃がんなどの病気にならないわけではありません。
ピロリ菌に感染している期間が長いと、胃の粘膜が正常に戻るのに時間がかかるからです。
除菌後も定期的に内視鏡検査などを受け、胃の状態を確認しましょう。