当院での甲状腺疾患
当院では
①甲状腺機能低下症(橋本病)と
②甲状腺機能亢進症(バセドウ病)
の検査、診断、治療まで可能です。
甲状腺機能低下症は無症状であれば基本的に治療は不要ですが、倦怠感、下肢などのむくみ、
脱毛、発汗の減少、記憶力低下、思考力低下、体重増加などの症状があれば甲状腺ホルモン製
剤による治療が必要です。
一方、甲状腺機能亢進症は動悸、多汗、手足の震え、体重減少、眼球突出、首の腫れ 、
イライラするなどの多彩な症状を認め、抗甲状腺薬による治療が必要ですが、
難治性の場合は必要に応じて専門病院にご紹介しています。
①甲状腺機能低下症とは
体全体の新陳代謝を促す甲状腺ホルモンが、何らかの原因によって
不足している状態をいいます。
甲状腺はのどぼとけの下にある蝶(チョウ)が羽を広げた形をした臓器
で、食物に含まれるヨウ素を材料にして、体内の新陳代謝を促進する
甲状腺ホルモンを作っています。
このホルモンは、
血液の流れに乗って心臓や肝臓、腎臓、脳など体のいろいろな臓器に
運ばれて、身体の新陳代謝を盛んにするなど大切な働きをしています。
甲状腺ホルモンは新陳代謝を促進するほかにも、脳や胃腸の活性化、
体温の調節などの役割があり、活動のために必要なエネルギーを
作っています。
甲状腺ホルモンの産生は脳下垂体より分泌される
甲状腺刺激ホルモン(TSH)により調節されます。
「甲状腺機能低下症」とは、
血中の甲状腺ホルモン作用が必要よりも低下した状態です。
症状
甲状腺機能低下症による症状には、
一般的に活動性が鈍くなり、
体温が低くなるほか、
全身のだるさや眠さ、
汗をかかない、
食欲が低下する、
抑うつ、
指で押しても跡を残さないむくみ、
声帯がむくむために声がかすれる、
無気力、
寒がり、
体重増加、
動作緩慢、
記憶力低下、
認知症、
消化管運動の低下により便秘、
心臓機能の低下により脈が遅くなる、
皮膚が乾燥する、
髪の毛が抜ける、
眉毛が抜ける
などがあります。
女性に多くみられ、40歳以降の女性の約1%が発症
するといわれています。
軽度の甲状腺機能低下症では症状や所見に乏しいことも多いです。
甲状腺機能低下症が強くなると、重症例では心臓の周りに水が溜まり、
心機能に影響を及ぼすこともあります。(粘液水腫)
傾眠、意識障害をきたし、粘液水腫性昏睡と呼ばれます。
甲状腺全体が腫れる場合もありバセドウ病による腫れとは違って
硬く表面がゴツゴツした状態になることもあります。
また、甲状腺ホルモンは、代謝の調節以外にも、
妊娠の成立や維持、子供の成長や発達に重要なホルモンなので、
甲状腺機能低下症では、
月経異常や不妊、流早産や妊娠高血圧症候群などと関連し、
胎児や乳児あるいは小児期の成長や発達の遅れとも関連してきます。
検査・診断
血液検査で甲状腺ホルモンと甲状腺刺激ホルモンを調べます。
甲状腺ホルモンの値が正常よりも低ければ
甲状腺機能低下症と診断されます。
甲状腺ホルモン値は正常でも甲状腺刺激ホルモンが高い場合は
潜在性甲状腺機能低下症の可能性があります。
甲状腺ホルモンが低い場合には
血中コレステロール値や中性脂肪が高くなりやすく、
放置すると動脈硬化が進行し心疾患のリスクが高くなります。
その他、超音波検査で甲状腺の大きさや腫瘍性病変の合併の有無
を確認することも重要です。
中枢性甲状腺機能低下症では下垂体、視床下部MRIを撮影します。
治療
甲状腺機能低下症の治療には、
甲状腺ホルモンである合成T4製剤(チラーヂン®S)の服用
による治療を行います。
鉄剤、亜鉛含有胃潰瘍薬、アルミニウム含有制酸剤などは
甲状腺ホルモン製剤の吸収を阻害するので、内服間隔をあけることが
必要です。
また抗痙攣薬や抗結核薬と併用時には増量が必要な場合もあります。
高齢者や、冠動脈疾患、不整脈のある患者さまでは
慎重に内服を開始します。
成人の合成T4製剤の内服維持量は甲状腺機能低下の程度によって
様々ですが、最大で100~150μg/日です。
内服治療は通常少量から開始し、維持量にまで徐々に増やします。
維持量に達するのには数か月かかります。
治療開始にあたって最も注意しなければならないのは、
狭心症などの虚血性心疾患を合併している場合です。
そういった患者さまは甲状腺機能低下症の治療開始時に
狭心症の頻発や心筋梗塞を生じる可能性がありますので、
12.5μg/日程度の少量から治療を開始します。
妊娠中は、甲状腺機能低下症を急速に改善する必要があるので、
診断後は100~150μg/日で開始します。
甲状腺ホルモン値が正常範囲内で、甲状腺刺激ホルモン(TSH)が高値
の場合は、「潜在性甲状腺機能低下症」と言います。
我が国での調査では健康な人の4~20%にみとめられるといわれており、
特に女性に多く年齢が上がるにつれて増加します。
治療すべきかどうかについては、未だに議論が多いですが、
持続性にTSH値が高値の場合や、妊娠を前提とした場合や妊婦に対しては
合成T4製剤の内服を行います。
一過性甲状腺機能低下症で症状が軽度のものであれば
特に治療の必要はありませんが、甲状腺機能低下症の症状が強ければ
数か月間、合成T3製剤(チロナミン®)を毎日15μg程度内服して
いただきます。
患者さまの血清FT4が正常化すれば中止することができます。
またヨウ素の過剰摂取が原因と判断された場合は、ヨウ素の摂取制限を
することで甲状腺の機能が回復することもあります。
原因
甲状腺そのものの働きが低下することで起こる
「原発性甲状腺機能低下症」、
甲状腺をコントロールしている甲状腺刺激ホルモン(TSH)の分泌が
少なくなって起こる
「中枢性甲状腺機能低下症」があります。
原発性甲状腺機能低下症の原因として
圧倒的に多いのは橋本病(慢性甲状腺炎)で、
ほかにヨウ素過剰によるもの、
バセドウ病のアイソトープ治療や甲状腺手術後に
起こることがあります。
また、
抗がん剤や不整脈の薬、
インターフェロンなどの薬物による影響や、
悪性リンパ腫、
アミロイドーシスなどの
甲状腺浸潤性病変によるものがあります。
予防/治療後の注意
食事、日常生活の注意
海藻や昆布のサプリメントなどヨウ素が含まれている食品を多く摂りすぎ
たり、イソジンのうがいを毎日のように使用したりすると
甲状腺機能が低下する可能性がありますので、
過剰にはとらないようにしましょう。
ただ、あまり神経質になる必要はありません。
ごく普通の食事の範囲で海藻類をとるのは問題ありませんし、
うがい薬も風邪の時に使用するのは全く問題ありません。
それ以外の日常生活での注意は特にありません。
妊娠予定の女性
妊娠中に甲状腺機能が低下していると流産しやすくなる
ことが分かっています。
妊娠が分かったら早期に甲状腺機能を再確認する必要があります。
甲状腺ホルモン薬による補充療法は長く継続する必要がある場合
が多いため、定期的な検査と補充量の調整が重要です。
②甲状腺機能亢進症とは
甲状腺から甲状腺ホルモンが多量に分泌され、全身の代謝が高まる病気です。
バセドウ病とは、この病気を報告したドイツの医師の名前に由来するもので、
米国や英国では別の医師の名前をとってグレーブス病と呼んでいます。
血液中に抗TSHレセプター抗体(TRAb)(自己抗体)ができることが原因です。
抗TSHレセプター抗体(TRAb)= 抗TSH受容体抗体(TRAb)
自己抗体とは自己組織に対する抗体で、
自己抗体により引き起こされる病気は自己免疫疾患と言われ、
甲状腺疾患はその代表的なものです。
この抗体は、甲状腺の機能を調節している甲状腺刺激ホルモン(TSH)
というホルモンの情報の受け手であるTSHレセプターに対する抗体です。
これが甲状腺を無制限に刺激するので、
甲状腺ホルモンが過剰につくられて機能亢進症が起こります。
このTRAbができる原因はまだ詳細にはわかっていませんが、
甲状腺の病気は家族に同じ病気の人が多いことでもわかるように、
遺伝的素因が関係しています。
症状
甲状腺ホルモンが過剰になると全身の代謝が亢進するので、
食欲が出てよく食べるのに体重が減り(高齢になると体重減少だけ)、
暑がりになり、全身に汗をかくようになります。
精神的には興奮して活発になるわりにまとまりがなく、疲れやすくなり、
動悸(どうき)を1日中感じるようになります。
手が震えて字が書きにくくなり、ひどくなると足や全身が震えるようになります。
イライラして怒りっぽくなり、排便の回数が増えます。
また、大きさに差はありますがほとんどの症例で
軟らかいびまん性の甲状腺腫が認められます。
眼球が突出するとよくいわれますが、実際には5人に1人くらいです。
検査・診断
甲状腺ホルモン(遊離チロキシン:FT4)と甲状腺刺激ホルモン(TSH)
を測定することで、診断できます。
さらにバセドウ病であることを確認するには、
原因物質である抗TSHレセプター抗体(TRAb)を測定します。
治療
抗甲状腺薬治療、
手術、
アイソトープ治療
の3種類がありますが、
通常は抗甲状腺薬治療をまず行います。
抗甲状腺薬(チアマゾール、プロピルチオウラシル)
は甲状腺ホルモンの合成を抑える薬です。
この薬で合成を抑えると、4週間くらいで甲状腺ホルモンが下がり始め、
2カ月もすると正常になって、自覚症状はなくなり、完全に治ったようになります。
しかし、原因のTRAbが消えるのは2~3年後なので、
TRAbが陽性の間は抗甲状腺薬をのみ続ける必要があります。
いつまでもTRAbが陰性にならない時は、
甲状腺を一部残して切除する甲状腺亜全摘(あぜんてき)出術をするか、
放射性ヨードを投与して甲状腺を壊すアイソトープ治療をすることになります。
このどちらを選ぶかは、甲状腺の大きさや年齢、妊娠の希望などを考慮して決定します。
甲状腺機能亢進症(バセドウ病)の
放射性ヨード治療とは
海藻にはヨードと呼ばれる栄養素がたくさん含まれています。
食事から入ったヨードは甲状腺に集まり、そこで甲状腺ホルモンが作られています。
放射性ヨードも食事のヨードと同じ性質をもっているので、
薬として服用すれば同じように甲状腺に集まります。
しかし放射性ヨードと食事中のヨードの違いは、
放射性ヨードがベータ線と呼ばれる特殊な放射線を出すことです。
これが甲状腺を部分的に破壊し、ホルモン合成を抑える働きをします。
これがヨード治療の原理です。
放射性ヨードのほとんどの放射線は甲状腺が受けます。
放射性ヨードは、ほとんどが甲状腺に集まり、一時的に身体の中に残ります。
一方、甲状腺に取り込まれなかった放射性ヨードは、
最初の1日間でほとんどが尿中に排泄されます。
身体の中の放射性ヨードはしだいに減っていき、
治療が終わったときには身体の中には放射能は残っていません。
ヨード制限中に食べてはいけない食品
検査の2週間前からヨードを含まない食事(禁ヨード食)が必要です。
ヨードは海藻類に多く含まれています。
寒天・昆布だしなどの形で思いがけなく入っていることもありますので、
食品の原材料表示を確認するよう心がけましょう。
ヨードを多く含むこんぶ、わかめ、のりなどの海藻類と、
そのだしや寒天などの加工食品を避けてください。
その後甲状腺のヨードの取り込み率と甲状腺の写真撮影(シンチグラフィ)をし、
ちょうど良い治療量を決めます。
なお、禁ヨード食は治療終了の1週間後まで続けてください。
- すべての海藻類
- 海藻加工食品
- 昆布エキスを含んだ食品
- 寒天を含んだ菓子類
- ヨードを添加した食品
- カラギナンを含んだ食品(海藻由来の食品添加物のこと)
- 赤身魚
- 青身魚
- 白身魚
- 貝・えび
- 動物の内臓など
治療
放射性ヨードが入ったカプセルを服用するだけの簡単な治療であり、副作用もありません。
ヨードは微量であり、ヨード過敏症の人でも安心して治療できます。
バセドウ病の治療には通常4-8週の入院期間が必要です。
ただしこの期間は甲状腺機能亢進の症状の強さにより異なります。
ヨード治療のみを行なう場合は短期間の入院になることもあります。
いずれにせよ、甲状腺に集まらなかった放射性ヨードのほとんどが尿に排泄されるため、
専用の治療病室に最低1日の入院が必要です。
入院期間は状況により異なりますので、担当医と相談してください。
放射性ヨード治療の効果はゆっくり現われます。
早ければ2週間くらいで機能が下がり始め、
半年くらいまで徐々に甲状腺の働きが下がっていきます。
甲状腺腫の大きさは、治療により縮小します。
これは抗甲状腺薬にみられない効果です。
この治療により甲状腺機能は確実に下がりますが、
放射性ヨードの効果には個人差があります。
予防/治療後の注意
ヨード治療は安全な治療法です。
ただし、治療後の半年くらいは甲状腺機能が変化しますので、
その時の状態にあわせて対処する必要があります。
仕事を軽減したり、休息が必要な場合もあります。
放射性ヨード治療後は長期的に見て、甲状腺機能低下症が高率に発生します。
このため、一旦機能が正常化しても通院を中止することなく、
経過観察を受けることが大切です。
なお、抗甲状腺薬は妊娠中でも医師の指示のもとに服用することができます。
バセドウ病は女性では100人に1人の頻度でみられる病気で、
決してまれなものではありません。
自覚症状がなくなっても治ったわけではなく、いつ薬をやめるか、
薬物治療以外の治療に切り替えるかなど難しい点もあるので、
できれば甲状腺専門医と相談しながら治療することをすすめます。
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