甲状腺機能低下症とは
体全体の新陳代謝を促す甲状腺ホルモンが、何らかの原因によって不足している状態をいいます。
甲状腺はのどぼとけの下にある蝶(チョウ)が羽を広げた形をした臓器で、甲状腺ホルモンというホルモンを作っています。
このホルモンは、血液の流れに乗って心臓や肝臓、腎臓、脳など体のいろいろな臓器に運ばれて、
身体の新陳代謝を盛んにするなど大切な働きをしています。
甲状腺ホルモンは新陳代謝を促進するほかにも、脳や胃腸の活性化、体温の調節などの役割があり、活動のために
必要なエネルギーを作っています。
甲状腺ホルモンの産生は脳下垂体より分泌される甲状腺刺激ホルモン(TSH)により調節されます。
「甲状腺機能低下症」とは、血中の甲状腺ホルモン作用が必要よりも低下した状態です。
症状
甲状腺機能低下症による症状には、一般的に活動性が鈍くなり、体温が低くなるほか、全身のだるさや眠さ、
汗をかかない、食欲が低下する、抑うつ、指で押しても跡を残さないむくみ、声帯がむくむために声がかすれる、
無気力、寒がり、体重増加、動作緩慢、記憶力低下、認知症、消化管運動の低下により便秘、心臓機能の低下
により脈が遅くなる、皮膚が乾燥する、髪の毛が抜ける、眉毛が抜けるなどがあります。
女性に多くみられ、40歳以降の女性の約1%が発症するといわれています。
軽度の甲状腺機能低下症では症状や所見に乏しいことも多いです。
甲状腺機能低下症が強くなると、重症例では心臓の周りに水が溜まり、心機能に影響を及ぼすこともあります。
(粘液水腫) 傾眠、意識障害をきたし、粘液水腫性昏睡と呼ばれます。
甲状腺全体が腫れる場合もありバセドウ病による腫れとは違って硬く表面がゴツゴツした状態
になることもあります。
また、甲状腺ホルモンは、代謝の調節以外にも、妊娠の成立や維持、子供の成長や発達に重要なホルモンなので、
甲状腺機能低下症では、月経異常や不妊、流早産や妊娠高血圧症候群などと関連し、胎児や乳児あるいは小児期の
成長や発達の遅れとも関連してきます。
検査・診断
血液検査で甲状腺ホルモンと甲状腺刺激ホルモンを調べます。
甲状腺ホルモンの値が正常よりも低ければ甲状腺機能低下症と診断されます。
甲状腺ホルモン値は正常でも甲状腺刺激ホルモンが高い場合は潜在性甲状腺機能低下症の可能性があります。
甲状腺ホルモンが低い場合には血中コレステロール値や中性脂肪が高くなりやすく、放置すると動脈硬化が進行し
心疾患のリスクが高くなります。
その他、超音波検査で甲状腺の大きさや腫瘍性病変の合併の有無を確認することも重要です。
中枢性甲状腺機能低下症では下垂体、視床下部MRIを撮影します。
治療
甲状腺機能低下症の治療には、甲状腺ホルモンである合成T4製剤(チラーヂン®S)の服用による治療を行います。
鉄剤、亜鉛含有胃潰瘍薬、アルミニウム含有制酸剤などは甲状腺ホルモン製剤の吸収を阻害するので、内服間隔を
あけることが必要です。
また抗痙攣薬や抗結核薬と併用時には増量が必要な場合もあります。
高齢者や、冠動脈疾患、不整脈のある患者さまでは慎重に内服を開始します。
成人の合成T4製剤の内服維持量は甲状腺機能低下の程度によって様々ですが、最大で100~150μg/日です。
内服治療は通常少量から開始し、維持量にまで徐々に増やします。
維持量に達するのには数か月かかります。
治療開始にあたって最も注意しなければならないのは、狭心症などの虚血性心疾患を合併している場合です。
そういった患者さまは甲状腺機能低下症の治療開始時に狭心症の頻発や心筋梗塞を生じる可能性がありますので、
12.5μg/日程度の少量から治療を開始します。
妊娠中は、甲状腺機能低下症を急速に改善する必要があるので、診断後は100~150μg/日で開始します。
甲状腺ホルモン値が正常範囲内で、甲状腺刺激ホルモン(TSH)が高値の場合は、
「潜在性甲状腺機能低下症」と言います。
我が国での調査では健康な人の4~20%にみとめられるといわれており、
特に女性に多く年齢が上がるにつれて増加します。
治療すべきかどうかについては、未だに議論が多いですが、持続性にTSH値が高値の場合や、
妊娠を前提とした場合や妊婦に対しては合成T4製剤の内服を行います。
一過性甲状腺機能低下症で症状が軽度のものであれば特に治療の必要はありませんが、甲状腺機能低下症の症状が
強ければ数か月間、合成T3製剤(チロナミン®)を毎日15μg程度内服していただきます。
患者さまの血清FT4が正常化すれば中止することができます。
またヨウ素の過剰摂取が原因と判断された場合は、ヨウ素の摂取制限をすることで甲状腺の機能が回復することも
あります。
原因
甲状腺そのものの働きが低下することで起こる「原発性甲状腺機能低下症」、
甲状腺をコントロールしている甲状腺刺激ホルモン(TSH)の分泌が少なくなって起こる
「中枢性甲状腺機能低下症」があります。
原発性甲状腺機能低下症の原因として圧倒的に多いのは橋本病(慢性甲状腺炎)で、
ほかにヨウ素過剰によるもの、バセドウ病のアイソトープ治療や甲状腺手術後に起こることがあります。
また、抗がん剤や不整脈の薬、インターフェロンなどの薬物による影響や、悪性リンパ腫、アミロイドーシスなどの
甲状腺浸潤性病変によるものがあります。
予防/治療後の注意
食事、日常生活の注意
海藻や昆布のサプリメントなどヨウ素が含まれている食品を多く摂りすぎたり、イソジンのうがいを毎日のように
使用したりすると甲状腺機能が低下する可能性がありますので、過剰にはとらないようにしましょう。
ただ、あまり神経質になる必要はありません。
ごく普通の食事の範囲で海藻類をとるのは問題ありませんし、うがい薬も風邪の時に使用するのは
全く問題ありません。
それ以外の日常生活での注意は特にありません。
妊娠予定の女性
妊娠中に甲状腺機能が低下していると流産しやすくなることが分かっています。
妊娠が分かったら早期に甲状腺機能を再確認する必要があります。
甲状腺ホルモン薬による補充療法は長く継続する必要がある場合が多いため、
定期的な検査と補充量の調整が重要です。