ESDとは?
内視鏡的粘膜下層剥離術(Endoscopic Submucosal Dissection: ESD)は、病変部を確認し
ながら高周波電気メスで病変部の全周を切開した後に、病変部を剥いでいき確実に病変を切除
できる手技です。この方法は、病変部の下(粘膜下層)に液体を注入して病変部を浮き上がら
せ、その部分を電気メスで剥ぎ取っていく方法です。20㎜を超える大きな病変や線維化(病
変が硬くなった状態)等EMR(Endoscopic Mucosal Resection」の略:内視鏡的粘膜切除術)
では切除が困難な病変に対してもESDで一括で切除が出来るようになってきました。
大腸の壁は粘膜層、粘膜下層、筋層という3つの層からできています。
大腸がんは最も内側の層である大腸粘膜(大腸内側の表面)に発生します。進行すると粘膜層
から粘膜下層、筋層と深部に向かって進行していきます。がんの進行が粘膜から粘膜下層の浅
い部分までの状態(早期大腸がん)であれば、大きさや形に関係なくESDで消化管の内腔から
粘膜層を含めた粘膜下層までを剥離し、病変を一括切除できます。高周波ナイフを用いるESD
は、手術を選択せざるをえなかった2cmより大きいがんの患者さんでも、おなかを切らずに治
療することができます。
ESDの適応
1.病変の最大径2cm以上でスネア(輪状のワイヤー)による一括切除(EMR)が困難
2.リンパ節転移の可能性がほぼない粘膜内がん、粘膜下層への軽度浸潤(しんじゅん)がん
3.粘膜下層に繊維化(病変が硬くなった状態)を伴い挙上が不良な病変
4.潰瘍(かいよう)性大腸炎など、慢性的な炎症がある病変
5.内視鏡治療で取り残したがんの再治療や、大腸ヒダにまたがる病変
利点は?
患者さんが受ける身体的負担が非常に少ないのことです。
早期のがんでも特に早期のものはリンパ節転移がほとんどないため、ESDを選択することで局
所のみの切除となり、臓器をほぼ温存できます。
ESDの手技
(1)まず内視鏡にて粘膜表面に拡がっているがんの切除範囲を確定。がんから5ミリ程度安全マージンをとってマーキングをを行う。
(2)病変の下の粘膜下層へ生理食塩水やヒアルロン酸ナトリウムなどを注入し、がんを浮き上がらせる。
(3)内視鏡の先端から特殊な電気メスを出し、粘膜下層を直接はがして、がんを粘膜ごと切除。病変を確実に切除するためマーキングした部分より外側の粘膜を切る。
(4)粘膜層をはぎ取るような状態で切除。
(5)切除終了後は止血処置を行う
(6)病変を回収
(7)病理診断を行う
治療に伴う合併症
ESDでは、
切除に伴う出血:0.7%から2.2%、
穿孔(せんこう:大腸の壁に穴があくこと):2%から14%
など合併症が報告されています。
ESDは、先進的で画期的な治療であるがゆえに、非常に高い技術が求められます。 大腸の壁
は胃の半分ほどの厚さ(約2~3mm)しかありません。そうした薄い腸壁の、さらに一部であ
る粘膜下層を、高周波ナイフで薄く剥いでいく操作は、慎重で確実な技術が要求されます。さ
さいな操作ミスで出血や穿孔(せんこう)(孔(あな)があくこと)などの合併症(偶発症)
を招く危険性があるので、集中力を持続させなければなりません。ESDを安全,確実に施行す
るには,切開・剥離の技術にも習熟する必要があります。
治療後の経過は?
ほかの内視鏡治療と同じく、根治する割合はほぼ100%です。
ただし、治療が難しいことから、合併症のリスクはやや高くなっています。